こどもの日に大人が肺に穴を空けた話

 

 

1年前のゴールデンウィーク。肺に穴が空いた。

 

その頃の僕は、スタバのお兄さん。

眩しくて直視できないようなキラキラした同僚たちや素敵なお客様に囲まれ、美味しいコーヒーと居心地の良い空間をお届けすることがなによりの悦びで、と〜っても充実したフリーターライフを送っていました。

 

 

GWなんてのは当たり前に忙しい。ここでGWを一緒に盛り上げてくれる愉快な仲間たちを紹介しよう。

 

まずは時代遅れインスタおばさん。

お洒落なmyカップを持参して、ネットで見かけた大して美味しくなさそうな、面倒臭いカスタマイズをしていくよ。客席で一生懸命写真撮ってる。若い子はみんなチーズドッグ伸ばしてるのにね。

 

お次は、勇気を出したオタクたち。

オタクは群れる。みんな同じの頼む。口で言わずにメニュー指差して注文する。

お兄さんは優しいから、

ラブライブのラバストかわいいですね!」

って声をかけるよ。大体あとで話しかけられた旨をツイートしてる。

 

まだまだいくよ。D.A.D標準装備のミニバンに乗った、態度の悪い家族連れ。

コイツらは大体ホワイトモカのデカいやつ。増量出来るトッピングは全部増量。無料のだけ。

 

最後はコイツらだ、キラキラJK軍団。

口癖は「ウチ抹茶しか飲まないんよね〜」です。

一気に大勢で来る。1人だけちっちゃいココアとか頼んでるの見るのは少し心が痛む。

一番タチ悪いのは、

カップに〇〇って書いてください!」

って平然と言ってくるところ。

カップの絵は善意であって強制されるものではない。けれど、断るわけにもいかないので言われた通りに書く。あとでTwitterで「お兄さんヘタクソ」

って何度晒されたことか。最初からあっちのお姉さんに頼め。

 

……と、ブログ5本くらい書けそうなくらい、たくさんの素敵なお客様がいらっしゃるGW終盤の5月5日。

今日も頑張るぞ〜って出勤ボタンをポチ。

 

 

「◎△$♪×¥●&%#!!!」

 

背中全体に突然の激痛。

内側からボコボコに殴られ続けてるような今までに経験したことがない痛み。ろくに呼吸もできない。

なんの前触れもないし、理解も追いつかないし、本当に「死ぬんか……」って思った。長男だから我慢できたけど。

 

治まる気配もないし、なんなら痛む範囲が胸の方まで広がってきて数分間身動きすら取れなかったけれど、少しずつ痛みに慣れてなんとか動けるように。

 

僕は普段は何も無くてもサボりたいけど、こういう時はムキになって痩せ我慢しちゃう面倒なタイプなので、そのうち治るでしょって平静を保って笑顔で働きます。この笑顔が一番キツい。

 

みなさんもスタバに行って、笑顔で話しかけられたなんて経験あるかも知れませんが、あれは上からの指示です。中には喜んで話しかける人も居るけれど、僕みたいな根暗には苦行でしかないわけです。少しでも笑顔が消えると、先輩のお姉さんに笑顔で怒られる。これが怖いのなんの。

「怒られないために生きる」がモットーなので、心を鬼にして笑顔を作ります。

 

スタバって大体1時間ごとに、レジの人とか、ドリンク作る人とか、材料仕込む人とか入れ替わるんですよ。

僕の最初のポジションはドライブスルーのレジ係。比較的動かなくていいけれど、1番お客さんと顔を合わせるところ。痛みは相変わらずだし、呼吸が出来ないから長いフラペチーノの名前も一息で言えない。

「ダークモカ(スー)チップ(ハー)フラペチーノです!」って。

 

しんどすぎる……、

こんなんじゃ柱になれないよ……。

 

そんな感じで30分くらい耐えたら少しだけ楽になってきました。まだまだ辛いものの、ジッとして動かなければ我慢出来るくらい。ただ、動くと辛いから歩き方は前傾姿勢のペンギンみたいな感じになる。

 

なんとか最初の休憩まで乗り切った。

これはすぐに病院に行くべきものなのか、大したことないものなのか。電話して聞こうにも、田舎にそんなシステムは無く、病院もGWでやってない。

ネットで調べると“肺気胸”ってやつの症状が完璧に一致する。肺に穴が空いて、空気が溜まっちゃってるみたい。

 

背が高くて若い男の人がなりやすいらしく、イケメン病って呼ばれることもあるらしいよ。嵐の相葉くんとか、佐藤健とか。

普段なら浮かれてTwitterで、

「“イケメン病”になっちまったかもな…俺……」

とか呟くところだけど、流石に痛みでそんな余裕はない。

こっちの記事では「安静にしてれば治る」って書いてあるけど、別の記事では「死に至ることも」って書いてある。

 

……死。死?!

極端すぎるでしょ。

「橋本環奈に彼氏は居る?胸は何カップ?」みたいな記事かよ。死ぬかもしれませんし、死なないかもしれませんってか。知ってるわ。

 

どうしよ〜って悩んでる間に休憩が終わる時間。

 

よし、働こう。

 

悲しき社畜の性。日本男児ここにあり。

もう終わったら病院行けばいいやって感じでした。

 

8時間耐え切ったけどポーカーフェイスにも限界があり、周りも気付かれました。下手したら入院なので、病院に行く旨を告げて退勤。

救急病院に向かいます。

 

GW救急病院は夜なのに人でいっぱい。

待合室で1時間待って診察してもらったけど、設備が無くて分からないからって大きい病院の紹介状を書いてもらう。ほぼ無駄足。車のブレーキで揺れるだけで痛いのに。

 

大きい病院は真っ暗で誰も居なく、少し怖かった。

座って待ってるとすぐに呼ばれ、軽く問診を受けた後、CT検査をされることに。

 

人生2度目のCT検査。こんな状況でも、あの仰々しい完未来感溢れる大掛かりな装置に飲み込まれ、身体を輪切りにされていくと考えると、少しの緊張とワクワクを禁じ得ない。真っ白な部屋で1人取り残されるのも、非現実的でたまらない。あと5回くらいやりたいな。年パス欲しい。

 

検査結果が出て、診察室に入るとCTの画像が真っ先に目に飛び込んでくる。不覚にも笑ってしまった。笑うと痛いのにね。

見せられた写真はこんな感じ(拾い画)

 

f:id:picpictor:20200505200618j:image

 

インターネットで見たやつだ!!

 

画像で言うと、矢印の指してる真っ黒な部分が空気の溜まってる場所。クロワッサンみたいのが肺。

僕の肺はこれより酷くて、通常の三分の一くらいになってた。

こんなの言われなくたってわかるよ。入院じゃん。

 

予想通りの肺気胸。やったね、イケメン病だよ。

治療の方法とか入院のこととか、色々話されたけど上の空だった。そのまま入院になるらしいので、とりあえず職場に連絡。天然なお姉さんが電話に出たので、肺に穴が空いたことを大袈裟に伝えました。死を回避したことで余裕が生まれています。シフトはなんとかしてくれるらしい。念のためしばしのお別れを告げてきてよかった。

 

戻って入院の書類とか書いていると、看護師さんや先生に、

「働いてたの?!よく我慢したね……」

って言われた。やっぱ帰ってよかったんだ……。

 

書き終わると早速治療に移るらしく、車椅子に乗せられて移動。初めての車椅子、初めての入院で変なスイッチが入った僕は看護師さんと笑いながらお話してたんだけれど、合流した担当の看護師さんから衝撃の一言が。

 

「ずいぶん元気だね〜!これから痛いことするのに。」

 

……なんて?

痛いこと?イタイコト??

は?今も充分痛いんだが……??

僕の中のインターネット過激派が目を覚まし、急に怖くなってきました。笑顔も消えて冷や汗が。

 

引き返そうにも僕は車椅子の上。外面ばかり取り繕っているので、弱音を吐いたり、泣き喚くなんて出来るわけもない。

逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ……

すると見えてきた「集中治療室」の文字。

 

集中治療なんて痛くないはずがない。

に、逃げてぇ〜〜〜っ!!

 

さっきの先生も合流し、服を脱いでベッドに寝かされる。ベッドの傍にはメス(?)、注射器、薬品などなど、怖そうなものがいっぱい。

 

さっきは浮かれていて聞いてなかったけれど、治療の内容は肺までチューブを通して空気を吸い出し続け、自然に塞がるのも待つ、というものらしい。

 

まずは麻酔を打たれます。

当たり前に局所麻酔。しかも乳首の上。

昔から「手術とかするなら眠ったままされてぇ〜、目が覚めたら全部終わってるのがいい〜」って感じだったので、希望はあえなく散りました。

意識があるまま体の中を弄られるなんて、正気の沙汰じゃない。

この麻酔も痛い。これから肺まで通すんだから当たり前なんだけれど、結構深くまで、それに何回も刺される。途中から痛みは無くなるが、見ていて気分が悪くなりそう。

麻酔が効いているのを確認され、いよいよチューブを通します。

 

先生の手にはメスのようなもの、流石に覚悟を決めます。

 

僕「やっぱり見ない方が良いですかね?」

 

先生「そうだね〜(苦笑)」

 

ですよね〜。ここで目を逸らしました。

麻酔のおかげで痛みは無いけれど、何かが体内に入ってくる気持ち悪い感覚。どんどん奥に入ってくる。

少しすると、中に入って来る感覚が無くなった。やっと終わりか、と満身創痍の胸を撫で下ろそうとした瞬間、先生がすごい力で傷口をグリグリしてきます。

 

終わったんじゃないの?なにしてるの?でも怖いから見たくない。痛くないけど怖い。力が強い。もうやめて。助けて。ごめんなさ…

 

ブシュッ!!!

 

という音が突然室内に響く。

 

……??

 

なんの音?僕から出たの??人間からこんな音出る……??

 

どうやら今度こそ終わったらしく、視線を戻すと乳首の上から割り箸くらいの太さのチューブが飛び出ていました。チューブの先には見慣れぬ機械。僕の呼吸に合わせて音が出ています。これが空気を吸い出すものらしい。

 

先生に終わりを告げられ、看護師さんから褒められました。

馬鹿にするなよ、僕だってもう大人なんだ。

正直、治療中怖くてキョロキョロしてたら看護師さんと目が合って少し安心したけどさ。恋かと思った。

 

この後は安静にしていれば良いだけらしいので、隣の病室に移された。一人にされると少し心細かったし、初めての入院に対するワクワクも麻酔で麻痺していた。

気がつくともう時計は22時を回っていて、今日のあれこれを思い出す。突然始まった濃い1日。一年経った今でも鮮明に覚えているくらい衝撃の連続で、流石に疲れていたのか、気が付くと眠りについていました。

 

 

僕はタバコを吸うけれど、本数は多くないので今回はあまり関係ないらしい。

人間の体ってのは、何もしていなくても突然異常が起きる。本当にどうしようもない。

今回学んだことは「少しでも普段と違うと思ったら病院に行く」ですね。昨今のコロナのこともあるし、一概には言えないけれど。

僕は自分が辛かっただけで済んだから良いものの、中には手遅れになってしまうケースもあるはず。みんな自分の直感を大事にね。

 

 

こんなに長々書くつもりがなかったので、前後編に分けようと思います。

呼んでくださった方ありがとうございます。

 

次回「ドキドキっ!初めての入院編」でお会いしましょう。

 

またね〜〜〜。